『九鬼文書の研究』に紹介された蘇民将来の話①

出典:『三国相伝陰陽輨轄簠簋内伝金烏玉兎集』安倍晴明著

「前略 ・・・・・・ここに南天竺の傍らに一の夜叉国あり。広遠国(出口聖師著には日本国に該当するという)という。その国の鬼王を巨旦大王と名づく。天王(筆者註 ・・・牛頭天王。以下同じ)彼の門に到りて宿を乞う。鬼王許さず。天王去りて千里の松園に至る。一の賤女有り。天王問うて曰く。汝室宅有りや。女の曰く吾は則ち巨旦の婢なり。東一里、曠野の中に蘇民将来の庵あり。貧賤にして禄乏(ろくとぼ)しと雖も、慈愛の志を抱く。宜しく彼に往きて宿を求むべし。天王東に向って彼の野中に到り、彼の庵を見る。主は老翁なり。天王宿を問う。将来笑って曰く。貧賤の家豈若干の眷属を留めんや。天王曰く。我独り宿せば則ち可なり。時に将来梁の茎を席となし、天王を坐せしむ。又一瓢を持てり、瓢中の粟半器に過ぎす。瓦釜に煮て楢の葉に置き天王及び眷属に餐す天王悦びて曰く。汝が志足れるかな大いなるかなと。其の志に感じて千日を報ゆ。翌日天王南海に至らんとす。将来曰く。我に一の宝船有り、名づけて隼鶏と曰う。行くこと速かなり。天王彼の船に移り須叟にして竜宮城に到る。竜王快然として天王を奉じて長生殿に移し、頗梨采女(はりさいじょ)に合歓せしむ。餉饗日久しく已に三七余歳を経て八王子を得たり(八王子の名前を省略)。以上は八将神なり。その眷属、八万四千六百五十四神。然して後に天王后妃及び八王子、諸眷属を率いて、広遠国に到り、彼の鬼館に入り諸々の眷属と共に乱入して彼の一族を没敵すること沙揣を蒔くが如し。彼の賤女を助けんとして、桃の木の札を削り、急々如律令の文を書し、彼の牒を弾指して賤女が袂中に収め、然して此の禍災を退かしむ。然して後に、彼の巨旦が屍骸を切断して、各々五節に配当して、調伏の威儀を行い、広遠国を蘇民将来に報し、然して誓って曰く。我末代に行疫神と成らん。汝が子孫と曰はば妨碍すべからざるなり。

二六の祕文を授け、末代の衆生、寒熱二病を受くるは則ち牛頭天王眷属の所行なり。もし此の病を退んと欲せば則ち、外に五節の祭礼を違へず、内に二六の祕文を収めて、須らく信敬すべし。

その五節の祭礼とは正月一日の赤白の鏡餅は巨旦が骨肉、三月三日の蓬莱の草餅は巨旦が皮膚、五月五日の菖蒲の結粽(ちまき)は巨旦が鬢髪、七月七日の小麦の素麺は巨旦が腱なり、九月九日の黄菊の酒水は巨旦が血脈なり。総べて蹴鞠は頭、的(まと)は眼、門松は墓験(しるし)、みな是れ巨旦調伏の儀式なり。今の世に至って、神事仏事、皆な此れを学んで法例と為すなり・・・ 中略・・・金神とは巨旦大王の精魂なり

云々」

小野 龍海’s 歴史塾

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