『未完謡曲集』
吉野津宮 磐山トモ
わき次第 御代を守りの神なれや。(繰り返し)、歩みをいざや運ばん、こゑ「抑是は当今に仕へ奉る臣下也。詞「扨も備州吉備津宮は。隠れなき霊神(上杉本「霊社」)にて御座候。殊に御釜鳴動のよし君聞召及ばれ。急(※)(ぎ)見て参れ(上杉本※印以下「聴聞いたし奏聞申せ」)との宣旨を蒙り。唯今(上杉本「備州」入る)吉備津宮へと急候、上(歌) 折をえし、洛陽(ハナノミヤコ)を立出(で)て、(繰り返し)、行衛(へ)かすめる山崎や。兵庫(上杉本「武庫」)の、山風長閑にて、須磨や明石の浦伝ひ。磯うつ浪も高砂や。猶しほ(を)れ行旅衣。吉備の山辺に着にけり、(繰り返し)、(上杉本「しかゝ」とあり) して二人一声 真金ふく。吉備の中山帯にせる。細谷川の。さやけさも、つれ にごらぬ神の恵みの声、二人 世にしらしめる。ながれとかや、さしこゑ 然れ ば垂跡のはじめより。弓箭(きゆうせん)を以て凶徒をしづめ(上杉本「たい(ひ)らけ」)。西国を領掌有しより已来(このかた)(上杉本「領掌有て」)。此山に跡を垂給ひ(上杉本「たれ給ふ故に」)。武略の道を。守り給ふ、下(歌) 仕へて年を送る身の、立居くるしきあさ清め、上(歌) 霞つゝ、花ちる山の朝朗(ほらけ)。(繰り返し)、後にや風のうからんと。神のめぐみをくみて知る(上杉本「くみ知や」)。塵にまじはる御誓イ。深く積れる花の雪、払(ひ)兼たる木陰かな、(繰り返し) わき「いかに是成老人に尋申べき事の候、して「此方の事にて候か何事にて候ぞ、わき「是は当今に仕へ奉る臣下成が(上杉本「それがしは都より参詣のものにて候が」)。御釜鳴動のよ(※)し君聞召れ。急ぎ見て参れとの御事也(上杉本※印以下「事承及。聴聞申さばやと存遙々罷下て候」)。扨此鳴動は何と申謂(はれ)にて候ぞ(上杉本「委御物語候へ」入る)して「旧ウ帝に吉凶を計(ハカル)といへり。此鳴動にてもなどか吉凶知らざらん。上つ人(上杉本「上一人より」)下万民に至る迄。当社を崇め奉り。折々に備ふる供御の其志を。謝(底本「討」上杉本による)せんが為の鳴動にて候(上杉本「御座候」)わき(カカル) 実々聞ば有難や。扨々当社垂跡のはじめ。鬼(き)神を平げ給ひしは。何れの在所を申や覧(上杉本「在所にて有やらん」)、して「さん候あの新(※)山(上杉本※印以下「乾に当て大山の候をは。新山と申候。此山」)にて九鬼を亡し。一天の守護神となり給(△)ふ。本地は(上杉本△印以下『給ふ故に。縁を結ばんともがらは。弓矢の冥加二世安楽に。守らんとの御ちかひ〔「誓願イ」と傍註〕にて候、(わき)「げに有がたき御ちかひかな。さてさて御本地は。いづれの尊容にて御座候ぞ、(して)「愚やヘだてはなき物を。』)虚空蔵の化現にてましませば。諸法実相の姿を顕はし(上杉本「て」入る)。色を見声をきく事も。何かは空の外ならん。されば嵐にもろく散花は。(カカル) 不滅の相と聞物を(上杉本「不滅の相をあらはす也」)、同上(歌) 躑躅(てきちよく)のくれなゐは。真生不生(しんしようふしよう)と示((ママ))し。細、溪(タニ)川の水の音、松ふく風も(上杉本「風は」)を(お)のづから。(上杉本「けいせいくは(わ)う長〔「長」ゴマ点三つ〕舌とかや。青葉まじりの山ざくらは。山色清浄心也と。」人る) 実目前の理りを。を(お)のれ、(繰り返し) 、と(上杉本「と」脱)説出(だ)す、心をさとり給へや わき(上杉本「まことに御本地たっとく候。」入る)猶々当社の(上杉本「御」入る)神秘御物語候へ、(上杉本『して「かたって聞せ申さうずるにて候』入る)同上(クリ) 抑当社と申は。孝霊天皇第二の皇子(底本「ゐんじ」上杉本による)。いさせり彦の尊と、申奉る、してさしこゑ 其比異国に吉備津火車(クワシャ)と申王子おはします(上杉本「まします」)同 悪行身に余りしかば。扶桑国に遠流せられ。此新山(上杉本『に居住し給ふ、(して) 鬼神を召つかはれ。』入る)四方一里が間を囲み。(上杉本『同 』入る)大石を高く畳あげ(上杉本「たゝみて」)。鬼(き)(上杉本「き」)の城と号し立(たて)籠る、して下 九州よりの(上杉本「の」なし)運上の、同御調(みつき)の舟を。まねきよする、(クセ)下 西国を押領あれば。帝都の衰微さは(わ)ぎにて。凶徒を(上杉本「を」なし)誅戮の、宣旨をなされ則(ち)。いさせり彦の尊を、大将にさし下さる。数万の、軍兵を引卒し、彼城をせめ給へ共。城さらによは(わ)らす、神通を現じ給へり。互にはなち給ふ矢は。中途にて、喰合落ければ。計略(はかりごと)(上杉本「謀」)をめぐらし。一度に二つ放さるゝ(上杉本「ゝ」なし)。一つの、矢は喰あひ二つは火車の身にたてば。凶徒は多く亡びけり。流るゝ血は川となる、今の血すひ川是なり(<より>まで上杉本で補う)<(して)上 くは(わ)しや、身よは(わ)り力つきて、同 きの城を追落さる。雉子と成て山中に、かくれさせ給へば。尊、鷹と現じ追給ふ。又魚と成て淵に入(れ)ば。鵜と現じ給ひて、くひあげられけるとかや。鯉くひのはしとて、今にたえせぬきどくなり。>して上 (上杉本「して上 」なし)火車、逆心を飜し、同 (上杉本「同 」なし)勇子の命(めい)滅する事を、悲します。武命の、滅するを悲しむと。頸をのべて降(かう)(上杉本「かう」)を乞。我名を君に讓(り)つゝ。末社となれば尊も。御諱(いみな)を改めて。吉備津、彦見(上杉本「見」なし)の尊と、夫(それ)より号し奉る(<より>まで上杉本で補う)<(して)上 尊は、いぞくをちう(ちゆう)りくし、同国土を守り給へば。国も豊に民あつく。みかげにすめるわれらまで。安くさかふ(う)る御代なれば。たれかはあふがざるべき> (ロンギ)上 ふしぎ成とよ老人よ。雎人ならず覚えたり、其名を名のり給へや、(上杉本「ふしぎや扨も老人の。かたるを聞ばたゞ人に、あらぬ其名は聞まほし」)して 我名をば、それとはいはじ岩代の、松の葉色(「色」上杉本で補う)も十帰りの、同 春を忘れぬ して 老木(おいき)とて、同 苔の、衣も年をへし、岩山の神は我なりと。名(※)乗も敢(アヘ)ず吉備の山。花の、木陰に失給ふ、其俤は失給ふ、(中入)(上杉本※印以下「御こゑあらたにい((ママ))ひの山。花の、木陰にたちかくれて、俤はうせにけり、其俤はうせにけり、しかしか」) (<より>まで上杉本で補う) <わき「聞しより猶貴きは此めいとうなり。末世といひながらかゝる、きどくもありけるかと。信心肝にそみ感涙を(お)さへがたう候。>わき(上歌) 永日(上杉本「永き日」)の、影も高根(「高嶺」の宛字)に入相の、(繰り返し)、きゝ(上杉本「こゑ」)はさそへど終日(上杉本「ひめもす」)に。下向を忘れ神前に、御名を唱へて待居たり、(繰り返し)、(上杉本「一せい」とあり、出端か)後して上(サシ) 在難や百王守護の霊神として。此山上に(上杉本「此山に住居し給ふ。大明神の御かげに」)年を経て。仕ふる御代も動(き)なき。磐(上杉本「岩」)山の神とは我事なり、同上(上杉本 「一セイ」) 久方の。空のどか(上杉本「空豊」)なる日の光。(上杉本『同 くもらぬ御代にあひに逢て。』)照す御影は(十杉本「の」)有難や(上杉本「有がたさよ」)、して 今ぞ直(すぐ)なる印迚(しるしとて)(上杉本『同(ノル) 今を((ママ))すぐなる、時代とて。(繰り返し)〔今を・・・・・・ 〕)同(上杉本「同」なし)(ノル) 神代の佳例(上杉本「を」入る)、うつり舞、うたふや梅がえ、榊葉の声、実(上杉本「実」なし)めづらかに、面白や(上杉本『して〔準一セイ〕 峯のあらしにちる花の、同 雪をめぐらす。たもと哉』入る)舞 して上(ワカ) 春の夜の。雪をめぐらす。舞の袖、(上杉本「して上」なく「同」のまま『〔ノル〕 春の夜の、(繰り返し)、』)同上ノル(上杉本「同上ノル」なし) 明ゆく時の、鼓(※)の山。(繰り返し)の(上杉本※印以下「つゞみ山の」)。冴かへる嵐は。拍子をそろへ(上杉本「そうし(そろヘイ)」)。吉備山の松風(上杉本「は」入る)、琴をしらべ。(上杉本「住かひも有、木の竹の。葉風の笛に。月はすみのほり。かぶの菩薩は、舞くだり、」入る)飜る雲のそで。挿頭((かざす))(上杉本「かざす」)や霞の、衣手もにほやかに。君が代は。万(△)歳楽と、舞お(を)さめ、(繰り返し)(万歳楽と・・・・・)、御戸帳(ミトバリ)の内にぞ、入給ふ(上杉本△印以下「万歳楽。わが国は今はた、太平国土を、舞治め。はなも根に帰る、こかげの社の、みとばりのうちにぞ、入にける」)
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